「これからは悠一さんに恩返しをして生きていきたいです」
「ん? 今でも十分だ。美月のおかげで俺は幸せだ」 私と彼は本当にお互いの気持ちが通じ合い、キスをした。 唇が離れると私は子供ができたことを伝えなければというプレッシャーにかられていた。 きっと喜んでくれるに違いないけれど……。緊張しながら口を開いた。 「実は妊娠したかもしれません。検査薬で陽性だったんです」 「何だって?」 今までに聞いたことがないくらい一番大きな声で驚いている。 「伝えようか伝えないかずっと悩んでいて」 「どうしてそんな大切なことを言ってくれないんだ。美月」 「私の心の問題でした」 「いや、不安にさせてしまっていたということは、俺の愛情がまだまだ足りなかったという証拠だ」 そう言うと顔をぐいっと近づけてきてにっこりと笑った。そして優しく抱きしめてくれた。 「愛する人のお腹の中に自分の子供がいるなんて幸せすぎる……」 「私もです」 額をくっつけ合っていつまでも体温を感じた。 「……悠一さん、私のことを愛していると言っていたのに……なぜ手を」 「いったい、何を気にしているんだ。嫌われたくなかったからだ」 「そ、そうだったんですね」 気になることが解決しスッキリし、私と悠一さんは楽しい夜を過ごしたのだった。「これからは悠一さんに恩返しをして生きていきたいです」「ん? 今でも十分だ。美月のおかげで俺は幸せだ」 私と彼は本当にお互いの気持ちが通じ合い、キスをした。 唇が離れると私は子供ができたことを伝えなければというプレッシャーにかられていた。 きっと喜んでくれるに違いないけれど……。緊張しながら口を開いた。「実は妊娠したかもしれません。検査薬で陽性だったんです」「何だって?」 今までに聞いたことがないくらい一番大きな声で驚いている。「伝えようか伝えないかずっと悩んでいて」「どうしてそんな大切なことを言ってくれないんだ。美月」「私の心の問題でした」「いや、不安にさせてしまっていたということは、俺の愛情がまだまだ足りなかったという証拠だ」 そう言うと顔をぐいっと近づけてきてにっこりと笑った。そして優しく抱きしめてくれた。「愛する人のお腹の中に自分の子供がいるなんて幸せすぎる……」「私もです」 額をくっつけ合っていつまでも体温を感じた。「……悠一さん、私のことを愛していると言っていたのに……なぜ手を」「いったい、何を気にしているんだ。嫌われたくなかったからだ」「そ、そうだったんですね」 気になることが解決しスッキリし、私と悠一さんは楽しい夜を過ごしたのだった。
「ただ後半は間違っているな。祖父を安心させたい気持ちはあったが、何よりも俺は愛する人を手に入れたかった。そして愛する人にも愛してもらうことができたら、子供が欲しい」 ストレートな言葉が心の中に入ってきた。やっぱり彼のことを信じて良かった。 周りの人が色んなことを言うかもしれない。でも私たち夫婦は私たちなりに話し合いこれからの未来を一緒に進んでいく。これが結婚して夫婦になったという証拠なのかもしれない。これからもいろんな困難に出会うことだろう。 今までは自分の気持ちを隠して生きて行くしかないと思っていたけれどこれからは正直に気持ちを伝えていこうと決意した。「初めは私なんか幸せになれないと思っていたので、悠一さんが迎えに来てくれた時も信じられませんでした。でも私のことを本当に大切にしてくれこの人は私のことを愛してくれているのだってわかったんです」「あぁ、愛しているよ」 私の隣に腰をかけて腰の辺りに手を回してきた。そして優しく抱きしめてくれる。「まさか大切な秘書に裏切られるようなことをされるとは思っていなかったが、これからも陥れようとしてくる人がいるかもしれない。だけど俺は間違いなく美月を世界で一番大事だと思っているし、幸せにしたい。だから不安になることもあるかもしれないが信じてほしい。他の人の言葉に惑わされないでくれ」「はい」 悠一さんの大きすぎる愛情に包まれて私は我慢することができずに大泣きした。「そんなに泣くな」「……だって」 自信がなくて不安で仕方がない人生だった私が、彼に出会うことで前向きに生きて行こうってさらに強く思えるようになった。 与えられた運命の中でも楽しみを見つけて生き抜こうと決意しています――。 こんな言葉を言ったことがあったけれど、それは自分に言い聞かせるための言葉で、マイナス感情にとらわれて生きていたのだ。
悠一さんが帰宅した。「お帰りなさい」「ただいま。手洗いとうがいをしてくる」「はい。夕食の準備をしておきますね」「ありがとう」 いつものように夕食を出すと、彼は嬉しそうに食べて完食してくれる。 この何でもない穏やかな日々が永遠に続いてほしい。だからこそ素直に気持ちを伝えるしかないのだ。「悠一さん、大切なお話があります」 食事が終わったタイミングで私は彼にお茶を出し目の前に座った。「あぁ、何でも話を聞く。どうかしたか?」「今日、七瀬さんがいらっしゃいました」「七瀬が?」 あまりにも予想外だったのか目を大きく見開いて身を乗り出した。「悠一さんのことを大事に思うからこそ、私に話をしに来たんだと思います」「何を言っていた?」 私は言いにくかったけれど勇気を出すしかないと思いはっきりした口調で話すことにした。でも緊張して心臓がドキドキしている。「世襲制を嫌っていて、跡継ぎを欲しいとも思っていないし結婚もしたくないという考えだったと聞きました。そして、この結婚は、おじい様を安心させるために結婚したのだと」 この心に抱えている苦しい思いを解消するためには言わなければいけないと思って発言した。しかし実際に口を開くと彼は少しだけ嫌な顔をした。「世襲性を嫌っているというのは事実だ。実力主義でいかなければ生き残っていけないと思う」 私は悠一さんの言葉にじっと耳を傾ける。
「話してくれた内容は、知りませんでした。でも……」「知らないということは奥様のことを信用していないという証拠ですよね」 きつい言葉を言われて心臓が刺されたかのように痛くなった。 胃がムカムカとしてくる。「こんなに大きな財閥の副社長が簡単に離婚すると世間的に評判が悪くなると思うんです。二人でよく話し合って決めていきたいと思います」 本当は怖くて怖くてたまらなかったけれど、私は強気で言い返した。 すると彼女は眉間にしわを寄せた。「たしかに私が首を突っ込むことではありませんね。大変失礼いたしました。しかし副社長にとってどの道が一番幸せなのかということをお考えになってください」「そうですね」「このことは内密にしてください。もちろん副社長にも。それでは」 七瀬さんは立ち上がり、頭を下げて退出した。 強がってみたものの、怖くて心配で仕方がない。 悠一さんは、無理をしているのではないか。考えれば考えるほど、わからなくなってしまった。 でも落ち込んでいる場合ではない。 お腹の中には新しい命が宿っているのだ。母親としてしっかりしなければならない。 私は大きく頷いて決意をした。 今夜、悠一さんが帰ってきたら気になることを聞いて、産みたいと伝える。「どんなことがあっても、お母さんが守るからね」 子供に向かって話しかけた。
夫婦の間で話し合うべきことを、なぜ秘書の七瀬さんに言われなければならないのだろう。(悠一さんが指示をしたの?)「どうしてですか?」「おじい様もお亡くなりになりましたし、自由になりたいと副社長は思っております。副社長は本来結婚したいと思っていなかったのです。仕事にまっすぐに進んで、跡継ぎはいらないと思っています。世襲制を排除したいと思っているのです」 そんなことを考えていることを知らなかったが、親の敷いたレールを歩いてきたと思って辛い思いをしてきた彼にとっては、そういう考えに至っても不思議ではない。 妙に説得力があったので私は話に聞き入ってしまった。「家族が引き継いでいくのではなく、実力のあるものが社長になっていくべきだと言っています。そういう考えのもと、たくさんの人に認めてもらいたいとの気持ちで一生懸命働いているのです。秘書として私は近くで見て痛いほど気持ちがわかりました」 働いている彼の姿というのは、ほとんど見たことがない。 会社に行って社員たちと少し話しをしているのを見ただけだ。 いつもそばにいる秘書でしかわからないところも多々あるだろう。「指示されていらしたのですか?」「いえ、彼はとても優しいお方です。自分の口から言えないので、私が代弁しにやってまいりました」「……しかし」 彼は本当に私のことを大切にしてくれて、愛情表現もいっぱいしてくれた。 だからおじい様のためだけに結婚したというのは違う気がする。 不安で本当のことを聞いてこなかった自分も悪いけれど、悠一さんの態度から彼を信じたいと思うのだ。
その日の夜。 私はぼんやりとキッチンに立っていた。「……き、美月?」 名前を呼ばれていることも気がつかずに、ハッとして振り返ると彼が立っていた。「おかえりなさい」「どうしたんだ? 名前を呼んでいるのに気づかないなんて。体調でも悪いんじゃないか?」 心配そうに近づいてきて私の額に触れる。「少し熱っぽい感じもするな。無理しないで休んでいたほうがいい」「……大丈夫ですよ」 目を合わせて話すのも気まずい。 妊娠しているということを隠している自分にもイライラするし、でも伝えたところで嫌な思いをさせてしまうかもしれない。「顔色も悪い。何かあったんじゃないのか?」 私の心を見抜かれているような感じがして、顔を背けた。「もう少しで出来上がるのでちょっと待っててください」「美月……。今は言いたくないことなんだな。ちゃんと話してもいいと思う日が来たら伝えてくれ」 どのタイミングで伝えたらいいかわからず、私は思い悩んでしまう。 誰にも相談できないし不安で怖くてどうしようもない。 妊娠検査薬で陽性と出てから、二週間が過ぎていた。 いつまでもこのままにしておくわけにはいかないし、お腹の子供のことも心配なので通院したい。 勝手に病院を予約して行ってこようかとも思っている。 スマホで近くの病院を探しているとチャイムが鳴った。 訪ねてきた人は七瀬さんだった。 何か悠一さんの大切な書類でも取りに来たのだろうかと思ったがそんな感じでもない。「奥様にお話があってきました。もしよければ、少しお邪魔してもよろしいでしょうか?」 断る理由もないので、リビングに通した。「……どうぞ」 お茶を出す。 張りつめた空気が流れていた。「何かあったのでしょうか?」「とても言いにくいのですが……。そろそろ離婚をしていただけないでしょうか?」「り、離婚ですか?」 頭を金槌で殴られたかのような強い衝撃が走った。